2トラック(TwoTrack)とは、ビート全体をL/R 2チャンネルの1本のステレオファイルにまとめた納品形式です。ラッパーはこのファイルにボーカルを録音するため、最初から「ボーカルが乗ること」を前提に作られているかどうかで、仕上がりや満足度が大きく変わります。
この記事では、ボーカルの居場所を作るミックス → ヘッドルームの確保 → 書き出し設定 → ツールでの最終チェックまで、納品直前に押さえておきたいポイントに絞って解説します。ミックス環境そのものの構築(トラックの並び・バス構成・挿すプラグイン)については、ミックステンプレートの作り方で詳しく扱っているので、あわせて読むのがおすすめです。
ビート販売では、用途に応じて複数のファイルを用意するのが一般的です。
| ファイル | 用途 | 仕上げの方針 |
|---|---|---|
| 試聴用マスター(タグ入り) | ストア・YouTubeでの試聴 | ラウドに仕上げる(−8〜−10 LUFS目安)。ボイスタグを入れる |
| 録音用2トラック(タグなし) | 購入者がボーカルを録る本番ファイル | 音圧を稼がず、ピーク−6〜−3dBFSの余白を残す |
| ステム(トラックアウト) | 上位ライセンスでの本格ミックス用 | パート別に書き出す。各パートも過度に潰さない |
ラウドネスの目標値についてはビート販売に最適なLUFSはいくつ?で詳しく解説しています。この記事で取り上げるのは、主に2行目の録音用2トラックの作り方です。
ラップボーカルの主な成分は、おおまかに次の帯域に分布します(男性ボーカル想定。女性はやや上にシフトします)。
つまり、ビート側とボーカルがぶつかりやすいのは、200〜500Hzの中低域と2〜5kHzの中高域です。これらの帯域を空けるには、次のような方法が効果的です。
メロディーループで2〜5kHzが常に鳴っていると、ボーカルの明瞭度とぶつかってしまいます。リードやプラックは、この帯域をEQで1〜3dBほど控えめにするか、フックの位置(音域)自体をボーカルより上か下へずらすと効果的です。上ネタから見直したい場合は、メロディーループの作り方も参考にしてください。
パッドやコード楽器を重ねすぎると、200〜500Hzが詰まりやすくなります。パッドはハイパスフィルターで下を整理し(目安150〜250Hz以下をカット)、同じ帯域を使う楽器は必要以上に重ねないようにしましょう。
リードボーカルは基本的にセンターへ配置されます。そのため、ビート側の上物はステレオに広げ、キック・ベース・スネアなど芯になるパートだけをセンターに残すと、中央に自然な「ボーカルの通り道」ができます。
ビート全体に深いリバーブを掛けすぎると、ボーカルを乗せたときに全体が遠く聴こえてしまいます。空間の演出はボーカル側でも加えられるので、納品ファイルでは控えめにしておく方が安心です。
録音用2トラックでありがちな失敗は、試聴用と同じ感覚でマキシマイザーを強く掛けてしまうことです。天井まで潰れたビートでは、ボーカルや後段処理(コンプ・EQ・グルー)のための余裕がなくなってしまいます。
「音が小さいと不満を持たれないか」と心配になるかもしれませんが、録音やミックスを行う側から見ると、ヘッドルームに余裕があるファイルの方が扱いやすいというのが一般的な考え方です。不安な場合は、ラウドな試聴用マスターと録音用2トラックの両方を用意し、ファイル名で用途を分かりやすく区別しておきましょう。
タグ入り試聴版とタグなし本番版の作り分けやタグの入れ方については、ボイスタグの作り方とボイスタグ作成ツールを参照してください。
書き出したファイルは、耳だけで判断せず、メーターでも確認してから納品しましょう。当サイトのダイナミクス診断ツールなら、ブラウザ内だけでチェックが完結します(音源は外部に送信されません)。
A. 2トラックはビート全体を1本のステレオファイルにまとめたものです。一方、ステムはキック・スネア・ベース・上ネタなどをパートごとに書き出した複数ファイルの納品形式を指します。2トラックはそのまま試聴やレコーディングに使いやすく、ステムは買い手のエンジニアが本格的にミックスし直せるのが特徴です。リースのライセンス階層によって納品物が変わるのが一般的です。
A. マキシマイザーで音圧を稼がず、ピークが−6〜−3dBFS程度に収まるように書き出すのが定番です。目的は、ボーカルと後段処理のための余白を残すことです。試聴用マスターはラウドに仕上げても問題ないため、用途ごとに2種類を書き出す運用が実務的です。
A. レコーディング用の本番ファイルはWAV(24bit、44.1kHzまたは48kHz)が基本です。MP3は非可逆圧縮のため音質が劣化し、加工にも向いていません。ただし、試聴用・共有用として320kbpsのMP3を併せて渡すのは一般的で、販売プラットフォームでもMP3リースとWAVリースは別の階層として扱われています。
A. 試聴用ファイルにはタグを入れ、購入者へ渡す本番の2トラックはタグなしにするのが一般的です。タグは無断使用を防ぐためのものであり、対価を支払った買い手のレコーディングを妨げないことが基本です。タグの作り方はボイスタグの作り方をご覧ください。
ビートそのものの完成度が同じでも、「ボーカルを乗せやすいファイル」を納品できるプロデューサーはリピートにつながりやすくなります。一度書き出しの手順を決めてプリセット化しておけば、毎回迷わず同じ流れで作業できるので、この記事の設定をそのままテンプレートとして活用してみてください。