リファレンス曲とは、自分の制作物と聴き比べるための「基準」となる市販曲のことです。プロのミックス・マスタリングの現場でも広く使われている手法で、耳の錯覚(作業中の曲ほど良く聞こえる/大きい音ほど良く聞こえる)を補正できる、費用対効果の高い品質管理の方法として知られています。
ただし、リファレンスは「なんとなく流して聴く」だけではほとんど意味がありません。この記事では、選び方 → 聴き方 → 数値での比較手順という3段階に分けて、当サイトのダイナミクス診断ツールを使い、市販曲と自分のビートをLUFS・クレストで比較する具体的な方法まで解説します。なお、リファレンス音源は購入などの正規の方法で入手することが前提です(後述)。
比較の基準となる音源は、次のような正規ルートで用意しましょう。
ストリーミングサービスでの再生は、普段の聴き比べには十分使えます。しかし、再生時にはラウドネスノーマライズ(各社が音量を自動調整する仕組み。詳細はLUFS解説記事参照)が掛かるため、「市販曲本来のラウドネス」を測定する用途には向いていません。ファイルとして解析する場合は、購入した音源を使いましょう。また、動画サイトなどから音声を抽出する行為は、利用規約や権利の面で問題があるため避けてください。
リファレンスは、お気に入りの曲を並べるものではなく、測定器の校正用サンプルのような役割を持つものです。選ぶときは、次の4つを基準にしましょう。
ビートメイカーであれば、ボーカル入りの完成曲だけでなく、公式にリリースされているインストゥルメンタル版もリファレンスに加えると、ビート単体の帯域バランスを直接比較できるので便利です。
リファレンス比較で最も注意したいのは、人間の耳は「大きい音=良い音」と感じやすいことです。市販曲は自作のラフミックスよりほぼ確実にラウドなので、そのまま比較すると「市販曲のほうが全部良い」としか感じられず、改善点が見えなくなってしまいます。
チェックするポイントは、低域の量感と締まり、ボーカル帯域(中域)の空き方、高域の明るさ、ステレオの広がり、そして音量の抑揚です。この順番で確認すると、改善点をEQやバランス調整など具体的な作業へ落とし込みやすくなります。
耳での比較に加えて、数値でも確認しましょう。当サイトのダイナミクス診断ツールでは、音源ファイルの統合LUFS・True Peak・クレスト(ダイナミクスの残り具合)をブラウザ内で測定できます。解析はすべてブラウザ内で完結するため、購入した音源がどこかへアップロードされることはありません。手順は次のとおりです。
なお、市販曲のLUFSは「目標値」ではなく「文脈」と考えることが大切です。ジャンルや年代によってラウドネスは大きく異なり、配信では再生時にノーマライズされます。自分のビートで目指すべき数値は、販売マスターなのか、配信なのか、それとも引き渡し用なのかといった用途によって変わります。目標値の考え方については、ビート販売に最適なLUFSはいくつ?を基準にしてください。
比較して見つけた違いは、具体的な制作工程に落とし込んで初めて意味を持ちます。
| 気づいた差 | 見直す工程 | 参考記事 |
|---|---|---|
| キック・808が細い、濁る | ドラムのレイヤリングと帯域整理 | ドラムのレイヤリング/808のミックス |
| 上ネタの存在感・コード感が弱い | 進行・音域・音色の設計 | コード進行・音域・音色の見直し |
| 音圧はあるのにパンチがない | マスターのリミッティング(クレスト確認) | LUFS解説/無料マスタリング手順 |
| ボーカルの入る隙間がない | 中域の整理とセンターの確保 | 中域を削ってセンターを空ける |
A. 2〜3曲が実用的です。1曲だけだとその曲の癖まで正解だと思い込みやすく、多すぎると基準がぶれます。「ローエンドの参考」「バランスの参考」「全体の質感の参考」のように、曲ごとに参考にするポイントを決めておくと迷いません。
A. ダウンロード購入ストアで楽曲を購入するか、自分で所有しているCDから取り込むのが基本です。ストリーミングの音源はラウドネスノーマライズや圧縮の影響を受けるため、厳密な比較には購入したファイルが向いています。動画サイト等から音声を抜き出す行為は、利用規約や権利の面で問題があるため行わないでください。
A. 数値だけをそのまま追いかける必要はありません。市販曲の統合ラウドネスはジャンルや年代によって大きく異なり、ストリーミングでは再生時にノーマライズで揃えられます。大切なのは、同程度のラウドネスに揃えて聴き比べたときの質感の違いと、クレストが極端に違っていないかを確認することです。用途別の目標値はLUFS解説記事を参照してください。
A. 音色の傾向、帯域バランス、ラウドネスといった「ミックスの質感」を参考にすること自体は、ごく一般的な制作手法です。一方で、特定の曲のメロディをなぞったり、音源の一部を無断で取り込んだりするのは別問題で、権利侵害になり得ます(サンプルクリアランス入門参照)。参考にするのは「数値と質感」、コピーしないのは「メロディと録音」です。
リファレンスは才能の代わりになるものではありませんが、耳の錯覚を補正するには非常に効果的です。ビートを1本仕上げるたびに、「揃えて・切り替えて・測る」の3点セットを制作の標準工程として取り入れてみてください。