無料でここまでできるマスタリング手順|フリープラグインで仕上げる
「マスタリングは高価なプラグインがないとできない」と思われがちですが、実際はそんなことはありません。マスタリングの基本工程は、EQで整える → コンプでまとめる → リミッターで音圧を上げる → メーターで確認する、という4つの流れです。この工程は、実績のある無料プラグインだけでも十分こなせます。
以下は、無料プラグインだけでセルフマスタリングを完結させる手順です。上から順にやれば1曲仕上がります。最後の数値チェックには当サイトの無料ダイナミクス診断ツールを使うので、有料メーターを用意する必要もありません。目標値の考え方(どのくらいのLUFSを狙うか)はビート販売に最適なLUFSは?で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
1. 準備:ヘッドルームのある2mixを書き出す
マスタリングは、元になる素材の状態でほぼ決まります。処理を始める前に、まずは以下の状態の2mix(ステレオファイル)を用意しましょう。
- マスターにリミッターを挿さない状態で書き出す(ミックス段階で無理に音圧を上げない)
- ピークが−6〜−3dBFS程度に収まっている(ヘッドルーム=処理できる余裕)
- キックとベースのぶつかりや、耳に刺さる帯域などの問題はミックス側で解決しておく。マスタリングは全体に作用するため、特定のトラックだけの問題を修正するものではありません
ミックスに不安がある場合は、先にBoom Bapミックステンプレートの作り方を確認しておくと、この後のマスタリング作業がかなりスムーズになります。
2. 無料マスタリングチェーンの全体像
今回使用する無料プラグインは以下の4つです。TDR Novaなどは、当サイトの無料プラグイン8選でも紹介している定番プラグインです。
| 工程 | プラグイン | 役割 |
|---|---|---|
| 1. EQ | TDR Nova(Tokyo Dawn Records) | ローカット、濁りの整理、うるさい帯域だけを抑えるダイナミックEQ |
| 2. コンプ | TDR Kotelnikov(Tokyo Dawn Records) | マスター向けに設計された無料バスコンプ。全体を薄くまとめる |
| 3. リミッター | LoudMax(Thomas Mundt) | ThresholdとOutputの2ノブだけのシンプルな無料リミッター |
| 4. 確認 | ダイナミクス診断ツール(当サイト・無料) | LUFS・True Peak・クレストの実測と用途別の合否判定 |
必要に応じて、音の質感作りとしてXfer OTT(ごく薄く)やiZotope Vinyl(Lo-Fi系の演出)を加えることもできます。ただ、まずは上記4つだけで「まっすぐなマスター」を作れるようになることが先です。
3. 手順①:TDR NovaでEQ(整える)
マスターEQの役割は、「音を劇的に良くする」ことではなく「不要な問題を取り除く」ことです。ブースト・カットともに1〜2dB程度の小さな調整が基本で、大きく変えたくなった場合はミックスに戻るのが基本です。
- サブソニックのカット:20〜30Hz付近から下をハイパスで軽く整理します(※数値は目安)。聞こえない超低域は、リミッターを必要以上に動作させる原因になります
- 濁りの整理:200〜400Hz付近がこもって聞こえる場合は、広めのQで1dB前後カット(※目安)
- ダイナミックEQの活用:Novaの大きな特徴です。スネアが刺さる、ハイハットが痛いなど「一瞬だけ気になる帯域」は、常時削るのではなく、一定以上出たときだけ抑えるダイナミックモードで処理すると、音の質感を残したまま整えられます
4. 手順②:TDR Kotelnikovでコンプ(まとめる)
マスターコンプの目的は、音圧を稼ぐことではなく、全体を薄く「接着」することです。掛かっているか分からないくらい自然な状態が理想とされています。
- ゲインリダクション(GR)は1〜2dBに収める(※目安)。メーターが常に大きく動いている場合は、掛けすぎです
- レシオは低め(2:1以下が出発点)、アタックは遅め、リリースは曲のテンポに合わせて自然に戻る設定が定番です
- 迷った場合はバイパスON/OFFで比較し、音量差ではなく「まとまり感が増しているか」を基準に判断します
5. 手順③:LoudMaxでリミッター(音圧を上げる)
最後にリミッターを使って、目標ラウドネスまで音圧を上げます。LoudMaxは操作項目が少ないため、シンプルな手順で扱えます。
- Output(シーリング)は−1.0に固定します。ISP(True Peak検出)オプションがある環境ではONにしておくと、エンコード時の歪み対策としてより安全です
- Thresholdを少しずつ下げながら音圧を上げます。下げるほどラウドになりますが、その分だけ音が潰れていきます
- 目標値は用途によって変わります。試聴・リース用の販売マスターなら−8〜−10 LUFS、配信向けなら−14 LUFS付近が目安です(用途別LUFSの詳細はこちら)
- キックの「ドスッ」という迫力が「ペチッ」とした音に変わったら、潰しすぎのサインです。その場合はThresholdを戻します
6. 手順④:ダイナミクス診断ツールで実測して仕上げ
耳だけを頼りにすると、モニター環境や疲労の影響で音圧の判断がズレることがあります。書き出したファイルをダイナミクス診断ツールに読み込み、数値で最終チェックを行いましょう。
- 書き出したWAV/MP3をツールにドロップ(解析はブラウザ内で完結し、アップロードは不要)
- 用途モードを選択:販売マスター(−8〜−10 LUFS/TP −1.0 dBTP)/ストリーミング(−14 LUFS付近)/引き渡し用(リミッターなし・ピーク−6〜−3dBFS程度)
- 合否判定とアドバイスを確認。LUFSが足りない場合はLoudMaxのThresholdを少し下げます。クレスト(ピーク−RMS)が6dBを大きく下回っている場合は潰しすぎなので、少し戻して再度書き出します
「書き出す→測る→微調整」を2〜3回繰り返せば、狙った数値にきれいに合わせられます。これが無料で完結できるセルフマスタリングの基本形です。
7. 無料チェーンの限界と、有料に進むタイミング
無料プラグインだけでも、工程としては商用リリースに対応できるマスターを作れます。ただし、有料ツールが強いのは主に作業効率や判断のサポート部分です。例えばiZotope Ozoneは、音源を解析してEQ・ダイナミクス・リミッターの設定をまとめて提案するAIアシストや、リファレンス曲に近づけるマッチング機能を搭載しています。この記事で手作業で行った判断の多くを、自動化できるのが大きなメリットです。
おすすめの流れは、まず無料チェーンでマスタリングの工程を理解し、その後に時短目的で有料ツールへ進むことです。仕組みを理解していれば、AIの提案が合っているかどうかも判断できます。iZotope Ozoneの機能や選び方についてはiZotope Ozone 12 レビューで詳しく解説しています(レビュー記事はPRを含みます)。また、音圧を稼ぐ専用リミッターの候補としてはWaves L4 Ultramaximizerレビューも参考になります。
よくある質問
Q. 無料プラグインだけで販売レベルのマスターは作れますか?
A. 作れます。マスタリングの基本工程(EQで整える→コンプでまとめる→リミッターで音圧を上げる→メーターで確認する)は、TDR NovaやLoudMaxなどの実績ある無料プラグインだけですべて対応できます。有料ツールとの大きな違いは、音質そのものよりもAIアシストや複数機能の統合による作業効率の部分です。まずは無料環境で工程を身につけるのが、定番の進め方です。
Q. マスタリング前の2mixはどんな状態にしておくべきですか?
A. マスターフェーダーにリミッターを挿さない状態で、ピークが−6〜−3dBFS程度に収まった2mixを書き出すのが基本です。ヘッドルームが残っていないと、EQやコンプで調整する余地がなくなります。また、キックとベースの被りなどミックス段階の問題はマスタリングでは修正できないため、事前にミックス側で解決しておくことが重要です。
Q. リミッターだけでマスタリングを済ませてもいいですか?
A. 2mixの状態が良ければ、リミッター1本とメーター確認だけでも成立します。EQやコンプは「問題がある場合に補正する」工程なので、必ず必要というわけではありません。ただし安全のために、シーリングを−1.0dBTPに設定すること、掛けすぎてクレスト(ピーク−RMS)が6dBを大きく下回るほど潰さないこと、の2点は守るのがおすすめです。
Q. 有料のマスタリングツールに移るタイミングは?
A. 無料チェーンで基本工程を理解した上で、「毎回の調整をもっと短時間で済ませたい」「リファレンス曲に自動で近づけたい」と感じたタイミングが目安です。iZotope OzoneのようなAIアシスト付きの統合ツールは、無料チェーンで手動で行っていた解析や調整作業を効率化してくれます。工程を理解してから使うことで、提案内容が適切かどうか判断できるようになるため、より効果的に活用できます。
まとめ
無料マスタリングの手順は、この5行に集約されます。
- ピーク−6〜−3dBFS程度のヘッドルームがある2mixを用意する
- TDR Novaで問題のある帯域だけを小さく処理(ダイナミックEQが強力)
- TDR KotelnikovでGR1〜2dBを目安に薄くグルー処理する
- LoudMaxでシーリング−1.0を固定し、用途別の目標LUFSまで音圧を上げる
- ダイナミクス診断ツールで実測し、「書き出す→測る→微調整」を繰り返す
道具が無料でも、工程そのものは有料環境と変わりません。足りないのは自動化と時短であって、音を仕上げる手順ではないからです。まずは1曲、このチェーンを通して診断ツールの合格判定まで持っていってみてください。使用するプラグインは無料プラグイン8選から揃えられます。さらに作業時間の短縮や自動化が必要になったら、Ozoneレビュー(PRを含みます)をチェックしてみるとよいでしょう。