筆者の愛用DAW&プラグイン|Pro Toolsを選んだ理由と、買い漁った末に残った定番【制作環境インタビュー】
※ヘッダーはイメージ画像で、実際の制作環境の写真ではありません。
「実際、この人はどんな環境で作ってるの?」——レビュー記事を読むとき、僕が一番気になるのはそこです。スペックが並んでいるだけの記事より、「なぜそれを選んだのか」「どう使っているのか」「実際に使ってどうだったのか」のほうが、圧倒的に参考になると思っています。
そこでこの連載では、Beat Labの運営者(=僕)の制作環境を、インタビュー形式で正直に紹介していきます。第1弾はDAW(Pro Tools)と、実際の制作で手放せなくなった主力プラグインについて。トップページの「筆者が使っている機材・プラグイン」に載せているものの、裏側の話です。
DAW編:なぜ Pro Tools なのか
よく「なんでPro Toolsを使っているんですか?」と聞かれることがあります。理由はすごくシンプルで、最初のきっかけは性能でも評判でもなく、ただの憧れでした。
高校生の頃、スケボーで知り合った先輩がラップをやっていました。当時の僕には、その先輩がとにかく格好よく見えたんです。ある日、その先輩がPro Toolsを手に入れて、「自分も同じものを使いたい」と思うようになりました。
もちろん高校生なので、お金に余裕なんてありません。最初に買った機材のひとつが、RolandのPCR-A30でした。MIDIキーボードとオーディオインターフェースを兼ねたモデルで、1台で2役こなせるところに魅力を感じていました。
その後、Mbox 2 Miniに付属していたPro Tools 8 LEを手に入れます。それまではSONYのACID ProやZOOMのMTR、MPC1000で遊んでいましたが、「DTMを始めた」と言えるのは、やっぱりこの頃からですね。
今振り返ると、当時は機材への憧れが何よりのモチベーションでした。お金がないなりに少しずつ機材をそろえながら、音楽に夢中になっていたあの時間が、自分のDTMの原点だったんだと思います。
まずは笑い話から(笑)。MPC1000は「水没」という、なかなか経験しない壊れ方をしました。ベトナムにボランティアへ行っている間、自分の部屋のエアコンを消し忘れていたみたいで。しかもMPCをエアコンの真下に置いていたんですよね。どうやらドレンが詰まって、エアコンから水がポタポタ垂れていたらしく……帰国したらMPCが水没して壊れていました(笑)。
それをきっかけに、以前から気になっていたMaschineを購入しました。結果的に、ここが大きな分岐点でしたね。そこから一気にハマって、初代Maschine → Maschine 2へ乗り換え。当時は実家とアパートを行き来することが多く、機材を持ち運ぶのが面倒だったので、アパート用にMaschine 2 Mikroも置くようになりました。Maschine 3の世代になってからは、そのMikroもMaschine 3 Mikroに買い替えています。
オーディオインターフェースは、Mbox 2 miniのあとに US-2000 → 003 Rack → SSL2+ → 828 という流れです。きっかけは、Mbox 2 miniの入力数が少なかったことでした。拡張しようと思ってミキサーを買ったんですが、MTRとミキサーを置くとなると、それだけでかなりの置き場所が必要になってしまって。「それなら最初からインプット数が多いものを1台置いたほうがいいな」と考え方を変えました。ただ途中で一度、SSLへの憧れが出てSSL2+にしたんですよね。でも、やっぱり入力数が足りなくて……結局828に落ち着きました(笑)。
MIDIキーボードもPCR-A30 → Axiom Pro 49 → 今のRoland A-49という感じで変わってきました。多機能なほうが便利だろうと思ってAxiom Proにしたり、Faderportと組み合わせて使っていた時期もあります。でも今は、それよりも机の上をスッキリさせておきたい気持ちのほうが強いですね。microKEYみたいなコンパクトなものも一応持っていますが、現在の机の上はA-49とMaschineだけというシンプルな構成に落ち着いています。
こうして振り返ると、結局ずっと同じことを気にしているんだなと思います。机の上に機材が増えすぎるのは嫌。でも必要な入力数や機能は削りたくない。そのバランスをずっと探してきただけなのかもしれません。


DAWはずっとPro Toolsで、アップデート版を買い続けてきました。理由はシンプルで、一度ケチってサブスク版にしたことがあるんですが、期限切れで急に使えなくなった経験があるんです。制作途中で「あれ、開かない」となる怖さを味わってからは、永続ライセンスに戻しました。僕の場合は通常版から自然にアップデートを続けてきたので、気づけば今はPro Tools Studioになっています。エディションごとの細かい違いは正直そこまで把握していないので、そこは必要な機能を見ながら選べばいいと思います。

もちろん、他のDAWも触っています。Abletonは何かの機材にLE版が付属していて試したことがあります。ただ、使い方が違いすぎて、自分にはなかなか馴染みませんでした。それと、進学のタイミングでミックスエンジニアを目指そうか迷って、レコーディングスタジオへ見学に行ったことがあります。そこがPro Tools環境で、「やっぱりPro Toolsって格好いいな」と改めて憧れを持ったのも大きかったですね。
実用面で大きいのは、やっぱり「やり取りの標準」であることです。今でも仲間にボーカルをお願いすると、音声ファイルではなくPro Toolsのプロジェクトファイルでデータが返ってくることがあります。スタジオやアーティストとのやり取りでは標準になっている感覚があるので、「やっぱりPro Toolsでいいな」と思っています。
現在のワークフローは、こんな感じで役割分担しています。メインのアイデア作りはMaschine。Maschineである程度の構成を作ったら、Pro Toolsへパラアウトして、そこからはPro Tools上でサックスを吹いたり、パーカッションを録音したり、ピアノを入れたり、トークボックスを録音したり。そのままミックスとマスタリングまで仕上げています。特に不便に感じることはないですが、強いて言えばVSTが使えない(AAXのみ)ところですね。欲しいプラグインにAAX版があるかどうかは、Pro Toolsユーザーだと自然と確認する癖がつきます。
ここは正直に言います(笑)。Macを使っている人なら、素直にLogicがおすすめだと思います。VSTも使えるし、アップデートにお金もかからないし、インターフェースも分かりやすい。FLも普通に憧れますし、アップデート無料という点でも十分アリだと思います。僕がPro Toolsを使い続けている理由は、これまでの歴史と、やり取りの標準性ですね。ちなみに補足すると、DAWが必要になる理由は「ボーカル処理のため」というより、音をレコーディングしたり、曲全体を通してMIDIを弾いたり、音質を細かく編集したりするためです。そういう作り込みまでしっかりやろうとすると、Maschine単体で完結させるのは少し大変。だからやっぱりDAWは必要、という感覚です。
プラグイン編:買い漁った末に「実戦で残った」定番
先に正直な話をすると、プラグインは本当に買いまくりました(笑)。その中で、最終的に実際の制作で使い続けているものは、このサイトで紹介しているような定番に絞られてきました。もともと僕はミックスやマスタリングが得意なタイプではなくて、できれば時間もかけたくない。でも、理想としている音には近づけたい。その試行錯誤の結果、たどり着いたのがミックステンプレートの記事で紹介しているようなチェーンです。ここでは、その中でも「これがないと制作が始まらない」と感じている相棒を紹介します。
① 一番の衝撃:Inphonik RX1200(SP-1200の再現)
初めて使ったときに、一番「うわ、すごい」と感じたのがこれです。僕はSP-1200そのものと、あの音を作っていく過程が好きで、昔からよく解説動画を観ていました。それでRX1200を使ってみたら、自分が頭の中でイメージしていた音にかなり近かったんですよね。90年代Boom Bapの記事でも書きましたが、あれだけ高額なビンテージ機材の質感を、これだけ手軽に再現できるのは本当にすごいと思います。他にもSP-1200を再現したプラグインはいくつか持っていますし、Maschineにも似たようなモードはあります。でも、RX1200はそれらとは全然違って、初めて触ったときはかなり感動しました。90年代ヒップホップの音が好きなら、まずはドラムだけでもこれを使ってみると、かなり印象が変わると思います。


② 味のある上モノ:Spitfire Originals Felt Piano
ピアノ系はこれですね。フェルトを挟んだような「少しこもった感じ」が特徴で、その質感がすごく好みです。Lo-FiやJazz Hip Hop、Boom Bap系のトラックには特に相性がいいと思っています。無料で試せる入り口も広いメーカーなので、上モノの音色を増やしたい人なら持っておいて損はないと思います。

③ 自然に整う:Waves IDX
音を自然に、しかも簡単に整えてくれるところが本当に助かるプラグインです。特に最近は上モノには必ずと言っていいほど挿しています。「メロとして聴かせたい部分」が無理なく前に出てくる感じが好きですね。EQで無理やり持ち上げるのとは違って、自然なまま存在感を出してくれる印象があります。詳しくはIDX単体のレビュー記事でも解説しています。

④ 時短の最強:iZotope Ozone
マスタリングはこれが中心です。複雑な処理を、一気に「いい感じの方向性」に持っていってくれるのが強みですね。AIが提案してくれた内容をベースに、自分の好みに調整していけばいい。調整のアイデア出しと時短、その両方で本当に助かっています。ミックスやマスタリングが得意ではない僕みたいなタイプほど、恩恵は大きいと思います。

場面別の「まずこれ」— 実戦の一手
基本的にはミックステンプレのチェーン通りですが、場面ごとに「まず最初に立ち上げるもの」を挙げるなら、こんな感じです。
① 808・ベース:倍音を足して可聴化
サブの低い芯は残しつつ、スマホなどの小さいスピーカーでも聴こえる倍音を足したいとき。MaxxBassとVitaminで可聴性を稼ぎます。


② 上モノ・メロディ:IDXで素直に前へ
ここは前述のIDXが鉄板です。目立たせたい帯域が自然に出てくるので、EQで無理に持ち上げるよりも破綻しにくいです。
③ ボーカル:タイミング・ピッチ・音量ならし
ボーカルはMelodyneとVocAlignが必須ですね。タイミング調整とピッチ補正は、この2つで決まります。そのうえで音量のムラを整えるために、Vocal RiderやMV2も結構使っています。




④ マスタリング:暖かさ→仕上げ→音圧
マスターの最初にSoftube Tapeを入れると、少しデジタルっぽさが消えて、暖かい質感になる感じがします。そこからOzoneで仕上げて、最近はL4もダイナミクスを調整しやすいので、マスターでかなり使っています。


音圧の考え方や最終段のルーティングについては、L4のレビュー記事とラウドネス診断ツールもあわせて見てもらえればと思います。
まとめ:憧れから始まって、実戦で削ぎ落とした
スケボー仲間への憧れから始まったPro Tools歴も、気づけばかなり長くなりました。DAWは「これが全員にとって正解」というものはないと思っています。MacならLogic、コスパやアップデート無料を重視するならFL、やり取りの標準性や自分の歴史を重視するならPro Tools。正直、どれを選んでも全然アリです。
プラグインも同じで、大事なのは「買い足し続けること」ではなく、「実戦で使い続けるものを残していくこと」だと思います。今回紹介したものは、たくさん買い漁った僕の環境の中で、最終的に手が伸び続けている定番たちです。まずは気になったものを1つ、自分の制作環境に足して試してみてください。
➡ 連載②:機材(ハード)編を公開しました。ヘッドホン・モニター・マイク・トークボックス、そしてサックス——今使っている機材と、それぞれを選んだ理由を、同じくインタビュー形式で掘っています。