ACE StudioのAIボーカル編集ガイド|Breath・Phoneme・Dynamic・Advancedで歌い方を決める
AIボーカルを触って最初にぶつかるのは、たぶん音質ではありません。「なんか歌い方が違う」のほうです。音程も歌詞も合っているのに、息継ぎの場所が不自然だったり、サビなのに力が入っていなかったり、語尾がやけにあっさりしていたり。
ACE Studioはそこを触れるようにしてあります。AIが声を出し、どう歌うかは作り手が決める——という考え方で、クリップエディタの下にあるパラメータパネルから、息継ぎの位置・音素の長さ・強弱・声質まで手で直せます。この記事では、そのパネルに何があって、どれをいつ使うのかを整理します。
なお、ボーカルパラメータの構成は2026年に入ってから変わっています(Power・Soft・Breathy・Chestの4本が Dynamic という1本のカーブに統合されました)。ここではV2モデルの現行仕様を、2026年9月23日時点の公式ドキュメントで確認した内容としてまとめます。
直せる場所は、大きく3つに分かれている
クリップエディタの下部にあるのがAIパラメータパネルです。V2モデルでは、ここが3つのタブに分かれています。
使う順番も、だいたいこの並びどおりで困りません。まず言葉の出方(Breath & Phoneme)、次に曲としての起伏(Dynamic)、それでも足りないところだけ声質(Advanced)。公式ドキュメントも「たいていの曲は Dynamic だけで足りる」とはっきり書いています。いきなりAdvancedの4つをいじり始めると、たいてい遠回りになります。
Breath & Phoneme|息継ぎと、発音の長さ
人間の歌でも、フレーズの前に息を吸う音が入るだけで急に生々しくなります。その息継ぎと、子音・母音それぞれの長さを扱うのがこのタブです。
息継ぎは一括で入れてから、要らない所を削る
レーン左のAdd allを押すと、クリップ全体に息継ぎが入ります。フレーズの頭など「ここだろう」という位置にACE Studioが判断して置いてくれるので、まず全部入れてしまって、不要なものを消すほうが早いです。長さはブロックの左端をドラッグして調整します。
音素の長さは「境界を動かす」
ノートは音素ごとに分割されて表示されます。長さを変えたいときは、音素そのものではなく音素と音素の境界をドラッグします。片方が伸びれば隣が縮むので、ノート自体の長さは変わりません。
効き方はシンプルで、子音を長くすると出だしが強く・はっきりし、短くすると前後のつながりが滑らかになります。日本語だと「た行」「か行」の頭を少し伸ばすだけで、印象がかなり変わります。
- ノートの頭にある境界は動かせません。歌い出しの位置を変えたいときは、ピアノロール側でノート自体を動かします
- 手で動かした音素は青く表示され、長さがロックされます。歌詞・ノート・歌手を変えてもAIに再生成されません
- 極端に伸ばしたり詰めたりすると、モデルがその長さに追従しきれないことがあります
Dynamic|強弱を1本のカーブで決める
Dynamicは、声の出し方の強さ全体を扱う1本のカーブです。上げれば力強く、下げれば繊細に。サビや聴かせどころで持ち上げ、Aメロやバラードの静かな部分で落とす、という使い方をします。
ここが以前と変わった部分で、V2モデルではPower・Soft・Breathy・Chestの4本がDynamicに統合されました。効果の薄い4本を別々に調整する代わりに、1本のカーブを描けばACE Studio側が適切な声質の組み合わせに翻訳してくれる、という設計です。すでに4つのいずれかを編集済みのプロジェクトを開いた場合は、作業を壊さないために従来の4レーンがそのまま出ます。
何も描かない間はAutoで、メロディ・歌詞・その歌手の癖からAIが強弱を決めています。描いた区間だけがManualに切り替わる仕組みなので、全部を描く必要はありません。気になる所だけ描いて、あとはAIに任せるのが現実的です。右ドラッグで消せば、その区間はAutoに戻ります。
ツールは2つで、ブラシ(自由に描く)と直線ツール(きれいなクレッシェンド・デクレッシェンドを引く)。歌手によっては、Dynamicの隣に Rap や Opera といった専用タブが増えることもあります。
Advanced|Air・Falsetto・Tension・Energy
Advancedを開くと、4つのパラメータが出てきます。これらはDynamicと違ってエンベロープではなく、合成エンジンが実際に使っている0〜1の値そのものです。AIピッチと同じように、歌手の癖・メロディ・歌詞・ピッチから自動生成されています。
重要なのは、この4つが独立していないことです。公式ドキュメントも「裏声を増やしたいならTensionも一緒に下げる」「優しい響きにしたいならTensionも下げる」と、組み合わせで書いています。1つだけ動かして思った音にならないときは、たいてい相方のパラメータが引っぱっています。
- 自動生成の部分は、簡単に作り直されます。ノート・歌詞・ピッチのどれかを変えると、その区間のパラメータはまとめて再生成されます。歌詞を1文字直しただけでも、そのまとまり全体が作り直しです
- 手で編集した部分は「ユーザーパラメータ」として保持されます。再生成の対象外になります
- 値を変えずにAIの生成結果だけをロックしたいときは、固定ブラシを使います。消しゴムを使えば、自分の編集を消してAI生成値に戻せます
- 公式は一貫して「調整は控えめに」と書いています。極端な値では想定外の歌になります
どこまでやるか:たいていはDynamicで足りる
ここまで4つの塊を見てきましたが、実務的な優先順位ははっきりしています。
- まず息継ぎ(Add all)。これだけで人間っぽさが一段変わります。コストも一番低い
- 次にDynamic。サビを持ち上げ、静かな所を落とす。曲としての起伏はほぼここで決まります
- 気になる語だけ音素の長さ。出だしがぼやける単語、逆に立ちすぎる単語を個別に直す
- 最後にAdvanced。「この一節だけもっと息っぽく」のような、狙いが言語化できているときだけ
逆に言うと、最初からAdvancedの4つを触り始めると効率が悪いということでもあります。公式が「たいていの曲はDynamicで足りる」と書いているのは、たぶんそういう相談が多かったからだと思います。
公式チュートリアル(デモ動画つき)
ACE Studioが、ここで扱った操作を短いデモ動画で見せるチュートリアルを公開しています。Vocal-to-MIDIでラフな歌をMIDIに変換するところから、歌い回しの追加、息継ぎと音素の編集、Dynamicと声質の調整、ハモリの追加、そしてビフォー・アフターの比較まで、11本の動画が6章に分かれています。
文章で読むより、レーンがどう動くかを見たほうが早い種類の操作なので、実際に触る前にひととおり眺めておくのをおすすめします。
よくある質問
Q. AIに歌わせたあと、どこまで直せますか?
A. V2モデルでは、クリップエディタ下部のAIパラメータパネルが Breath & Phoneme、Dynamic、Advanced の3タブに分かれています。息継ぎの位置と長さ、各音素の長さ、フレーズ全体の強弱カーブ、そして Air・Falsetto・Tension・Energy という4つの声質パラメータを調整できます。歌手によっては Rap や Opera といった専用タブが追加されることもあります。
Q. Power・Soft・Breathy・Chest はどこへ行きましたか?
A. V2モデルではこの4つがDynamic という1本のカーブに統合されました。効果の薄い4本を個別に調整する代わりに、1本のカーブで強弱を描くと、ACE Studio側が適切な声質の組み合わせに翻訳します。ただし既存プロジェクトで4つのいずれかを編集済みの場合は、作業を保持するため従来の4レーンがそのまま表示されます。
Q. Advanced の4つは常に触ったほうがいいですか?
A. 公式ドキュメントは「たいていの曲は Dynamic だけで足ります」としています。Advanced の Air・Falsetto・Tension・Energy は特定の声質を狙って細かく制御したいときに使い、調整は控えめにするよう勧められています。極端な値を入れると想定外の歌になることがあります。
Q. 手で直した部分は、歌詞やメロディを変えると消えますか?
A. 消えません。手動で編集した箇所はユーザーパラメータとして扱われ、ノート・歌詞・ピッチを変更しても再生成されません。音素の長さも、調整すると青く表示されて長さがロックされます。逆に自動生成のままの部分は、歌詞を1文字変えただけでもその区間全体が再生成されます。
まとめ
AIボーカルの「なんか違う」は、多くの場合ピッチではなく歌い方の問題です。そしてACE Studioでは、そこがちゃんと編集対象になっています。
- Breath & Phoneme:息継ぎと、子音・母音の長さ。一括で息継ぎを入れて、要らない所を消すところから
- Dynamic:強弱を1本のカーブで。描いた所だけManualになるので、全部描く必要はない
- Advanced:Air・Falsetto・Tension・Energy。狙いが決まっているときだけ、控えめに
- 手で直した所は保持され、自動生成のままの所は歌詞を1文字変えるだけで作り直される
全部を作り込む必要はありません。息継ぎを入れてDynamicでサビを持ち上げる、それだけでも印象はかなり変わります。まず1フレーズだけ選んで、AutoとManualを行き来してみるところから始めてみてください。